日本航空株式会社に聞くサステナビリティに「お客さまとともに」取り組む姿勢と共創の意義

スポーツを楽しめる社会を守るために、スポーツの力でサスティナビリティの実現を目指している浦安D-Rocks。社会との共創によってサスティナビリティの実現をめざす「D-Rocks Sustainability Hub」では、様々な方々へのインタビュー、対談を通して、さまざまな立場の方々にサスティナビリティの実現について発信していきます。

第4回は、 日本航空株式会社(以下JAL)ESG推進部企画グループの西岡桃子さんにご登場いただきます。JALはグループ全体として、ESG戦略を「価値創造・成長を実現する最上位の戦略」と位置づけ、CO2総排出量の削減や限られた資源の有効利用をはじめ、多様な取り組みを早い段階で展開し、成果も残しています。

今回は「#かくれナビリティ」をはじめ、先進的なサステナビリティ活動を推進しているJALの取り組みやどのような姿勢を持って取り組んでいるかを伺いながら、いちスポーツチームとしてのサステナビリティ活動への向き合い方を見つめ直します。

CO2排出量実質ゼロを実現する責務。キーワードは「お客さまとともに」

浦安D-Rocks 柳原 : 昨シーズンの試合会場でトークセッションさせていただいた時以来ですね!サステナビリティの話題をさらに深く伺える機会を嬉しく思っています。

グループ一体となってサステナビリティに取り組まれている印象があるのですが、多岐に渡るサステナビリティに関する取り組みを進める上で、まずは西岡さんの役割について教えていただけますか?

日本航空株式会社 西岡さん : 私は「ESG推進部企画グループ」に所属しています。ESG推進部ではJALグループのサステナビリティ全般を担当していて、主に投資家や一般のお客さまに向けた情報発信、イベント等を通した社内外へのサステナビリティ意識の浸透を担当しています。

浦安D-Rocks 柳原 : かなり広い範囲をご担当されていますね。

日本航空株式会社 西岡さん : JALグループはいろんな職種がある中で、それぞれの部門でESG戦略を最上位に掲げてサステナビリティを推進しているのですが、私たちは他部署と連携しながら、それらを取りまとめるポジションです。

浦安D-Rocks 柳原 : 貴社は、環境マネジメント、持続可能な航空燃料分野と言った領域から、地域、社会の行動変容につながる部分までサステナビリティの取り組みを広く発信している印象があります。

日本航空株式会社 西岡さん : 私たちのキーワードは「お客さまとともに」。JALグループは、すべてのお客さまに最高のサービスを提供することを目指しています。それはサステナビリティの発信でも同じで、なかなか自分ごと化しにくい環境問題のことも、お客さまに伝わるようなコミュニケーションを目指しています。

浦安D-Rocks 柳原 : わたしたちもなぜラグビーチームが、サステナビリティの取り組みや発信に注力する必要があるのかと聞かれることがおおいので、あえてご質問いたしますが、貴社が取り組み、発信をおこなう理由はなぜなのでしょうか?

日本航空株式会社 西岡さん : 地球上の資源が枯渇しつつある現代で、継続的に社会活動を続けていくためには「サステナビリティ」が重要なのは、皆さん周知のことかなと思います。どの企業も100年、200年続けていくためにこのままでは良くないと思っているはずです。

特に、私たちは航空会社なのでCO2排出は大きな課題です。CO2排出量の内訳は、航空機からの直接排出が約99%を占めています。この事実を踏まえて、航空機からのCO2排出量削減を最優先課題として対応しているところです。

浦安D-Rocks 柳原 : CO2の議論は大きいですね。最近はスポーツチームでも環境負荷を考慮して、飛行機による移動を避ける方法を検討するチームも出ています。

日本航空株式会社 西岡さん : 私たちのCO2排出量の削減は、自分たちが出してしまったものの後始末を自分たちでやり切る、という意味では当然やるべきことだと思っています。ただ、そのアクションは私たちだけで完結できるものでもありません。もちろん、JALとして頑張れるところは最大限頑張るのですが、お客さまと一緒に取り組むことも必要だと思っています。

浦安D-Rocks 柳原 : 具体的にはどのような取り組みを実施されているのですか?

日本航空株式会社 西岡さん : 「お客さまとともに取り組む環境活動」の一環として、ご賛同いただけるお客さまにご協力をお願いしながら、駐機中に窓の日よけを下ろし、機内の温度上昇を抑える取り組みを実施しています。10分間補助エンジンの使用を減らすことでも削減できるCO2排出量は大きく変わってくるんです。

CO2排出量の削減と言われると、大きなテーマに聞こえますが、実はちょっとしたことがCO2排出量を削減することに繋がっています。そういったこれまで可視化されていなかった航空利用におけるサステナビリティを「かくれたサステナビリティ=#かくれナビリティ」として、お客さまに伝えています。

浦安D-Rocks 柳原 : たしかに駐機中に窓の日よけを下ろすと機内の温度は保てそうですね。他にはどんな「#かくれナビリティ」があるんでしょうか?

日本航空株式会社 西岡さん : 搭乗時間に間に合うことも「#かくれナビリティ」の一つです。定時到着に間に合わせるために、もともと計画していたスピードより加速する必要があるので、CO2が余分に排出されてしまうんです。お客さまに時間に余裕を持ってご搭乗いただくことで、この分のCO2排出量を抑えることができますし、最適な運航高度や離陸・着陸の方式の選択など、運航乗務員がより燃料効率のよい運航をする可能性が広がります。

浦安D-Rocks 柳原 : そういった個人のアクションを積み重ねて行くことが重要ですね。私たちのチームもいかに行動変容を促すかということを大きなテーマとして意識しています。ファンの皆さまも何かできることがあるならやりたいけれど何をしていいかわからないとおっしゃられますので、簡単にできるアクションをともに行いたいなと日々思っています。

押し付けや我慢ではない、行動変容を促すために必要なこと

日本航空株式会社 西岡さん : だからこそ、スポーツチームの皆さんがサステナビリティへの取り組みに興味を持っていただいたり、実際にアクションを起こしたりしている姿勢はとても素晴らしいと思います。

浦安D-Rocks 柳原 : スポーツができなくなる未来への危機感が選手たちに強くあることも大きな原動力ですね。気温上昇の影響で、今年の夏も練習内容の変更を余儀なくされることもありました。

日本航空株式会社 西岡さん : なるほど、そうですよね。

浦安D-Rocks 柳原 : ラグビー選手の特性なのかもですが、選手の環境問題に対する意識や勉強したいという気持ちの熱量は強く感じますね。スポーツチームは組織規模が小さいため単体だけではなかなかインパクトが生み出せないかもしれないのですが、ファンとともにできると、大きなインパクトにつながるんじゃないかなと思っていて。

日本航空株式会社 西岡さん : 試合会場で試合前に、スポーツにおける「#かくれナビリティ」を見つけてみるのも面白そうですね!

浦安D-Rocks 柳原 : それはぜひ、やりたいです!スタジアムにもたくさんあると思うのでともに発信していきたいですね!

一方で、行動変容を促すっていうのにはなかなかハードルもあると思っています。実際にこれまでさまざまな取り組みを展開されてきて、その辺りの手応えはどのように感じていますか?

日本航空株式会社 西岡さん : まだまだ課題はありますが、「#かくれナビリティ」の認知度が高まっているのは少しずつ感じています。実は「#かくれナビリティ」のステッカーも作ったんですけど、結構これも好評で。これ自体を浸透させることはきっかけにしか過ぎないんですけど、手に取ったお子さまが親御さんとのコミュニケーションを通じて「リバースエデュケーション(=逆向きの学び)」を実践してくれているみたいです。

浦安D-Rocks 柳原 : 専門家ではない、ちょっと詳しい人に気軽に聞ける状態を作ることって大事ですよね。

日本航空株式会社 西岡さん : 特に最近は学校でもSDGsをはじめ、気候変動の問題を学びますよね。お子さまのほうが詳しい家庭も多いんじゃないでしょうか。

浦安D-Rocks 柳原 : それに、子どもたちにとっては航空産業のお仕事は憧れの職業の一つ。きっと真似したい、かっこいいと憧れを抱くお子さまも多いんじゃないんですか。

日本航空株式会社 西岡さん : スポーツ選手も同じですよね。でも、そういう憧れの存在が取り組むことのインパクトは大きいと思っています。

特にサービスをご提供するにあたり、一見「サステナビリティ」と聞くとサービスが悪くなる、我慢しなければいけないというイメージを持たれることもあるんです。だけど、実際は全くそんなことはありません。次世代にとって、憧れの対象が進んでサステナビリティのアクションを実践し、見せることで、そのイメージを覆すこともできるのではないかと思っています。

サステナブルな社会を共創して実現するために。キーワードは「地域」?

浦安D-Rocks 柳原 : ここまでJALグループのさまざまな取り組みやサステナビリティと向き合う姿勢についてお伺いしてきました。今後の展望を教えてください。

日本航空株式会社 西岡さん : まずはグループとして最優先課題として掲げている「航空機からのCO2排出量削減」の実現に向けて、引き続き社員はもちろん、お客さまへの意識啓蒙から行動変容まで、さまざまな取り組みを展開していきたいと思っています。

浦安D-Rocks 柳原 : 他に今、西岡さんが気になっているトピックやテーマはありますか?

日本航空株式会社 西岡さん : それでいうと「生物多様性の保全」でしょうか。コロナも明けて、海外からの観光客も年々増加している今、オーバーツーリズムの話もホットトピックです。しかしながら「生物多様性」についてはまだまだ試行錯誤しているところなので、ぜひさまざまな方との共創の可能性を探っていきたいです。

浦安D-Rocks 柳原 : 海外のスポーツチームでは、生物多様性の取り組みとして「バグ・ハウスやバグ・ホテル(虫のホテル)」を設置する取り組みが流行っているらしいです。日本で実現するハードルはあるかもしれませんが、クラブハウスや地域を巻き込んで、そういった取り組みを実現することにもチャレンジしてみたいですね。

日本航空株式会社 西岡さん : たしかに、地域を巻き込むというのは良さそうですね。実はJALグループの社員寮が浦安市にあるので、寮を出た後も住んでいる社員が多い地域なんです。選手の皆さんと社員が浦安市の生物多様性について考えてみるなど、何かできそうなことがありそうです。

浦安D-Rocks 柳原 : ぜひやりましょう。

日本航空株式会社 西岡さん : 一方で、環境問題に留まらない「サステナビリティ」に取り組むことも必要だと思っています。航空会社は職種によってジェンダーギャップが大きい業界です。そういった現状にも目を向けながら、グループとして引き続きサステナビリティ活動を推進していきたいと思っています。

浦安D-Rocks 柳原 : 今日はありがとうございました!

企画・取材・編集:浦安D-Rocks

執筆:守屋あゆ佳