川崎フロンターレに聞く スポーツチームがSDGs活動をやる意義
スポーツを楽しめる社会を守るために、スポーツの力でサスティナビリティの実現を目指している浦安D-Rocks。社会との共創によってサスティナビリティの実現をめざす「D-Rocks Sustainability Hub」では、様々な方々へのインタビュー、対談を通して、さまざまな立場の方々にサスティナビリティの実現について発信していきます。
記念すべき初回は、株式会社川崎フロンターレ事業本部 経営企画部 マネージャー 黒木 透さん。
川崎フロンターレはこれまで企業とのSDGsパートナー締結や、SDGsを体験しながら楽しく学べるイベント「かわさきSDGsランド powered by FDK」を主催するなど、Jリーグ トップレベルのクラブでありながら、SDGsを軸としたサステナビリティ活動を多岐にわたって展開しています。
川崎フロンターレにてSDGsの取り組みを牽引してきた黒木さんへのインタビューを通じて、スポーツクラブがサステナビリティ活動に取り組む意義や可能性を探ります。
スポーツクラブは地域共創のハブになる。川崎フロンターレがSDGsに取り組む理由
浦安D-Rocks 内山 (以下内山): 浦安D-Rocksでは、World Rugbyが発表したサステナビリティアクションと足並みを揃え、株式会社NTTドコモと連携し、より健全な地球と持続可能な社会に貢献することを目指しています。
川崎フロンターレさんといえば、先進的なサステナビリティ活動に積極的に取り組まれている姿が印象的です。なぜ、こういった取り組みを始めたのでしょうか?
黒木 透さん(以下黒木さん): ラグビーと同じく、サッカーも気候変動の影響を大きく受けているスポーツの一つです。現にJリーグでは試合中止数が過去と比較して5倍に達していたり、猛暑・酷暑でプレー機会の減少やパフォーマンスの低下が指摘されたりするなど、気候変動への対策は急務です。
一方、『SDGs』という言葉が生まれる前から川崎フロンターレは地域に愛されるチームを目指し、社会貢献活動の一環として、川崎市内での環境保全活動やゴミ拾い活動などに選手らも参加してきました。現在は『FOOTBALL TOGETHER』の合言葉のもと、『スポーツで、人を、この街を、もっと笑顔に』というミッションを掲げて、2023年では年間約3200回のSDGs活動が、何らかの実施されています。
浦安D-Rocks 柳原(以下柳原): 浦安D-Rocksも昨年12月に「サステナビリティ宣言」を発表しました。チームとして目指す方向性を言語化することは大切ですよね。具体的にどんな活動が行われているんでしょうか?
黒木さん: 活動のジャンルは多岐にわたります。選手が水色のサンタクロースに変身し、小児科病棟を慰問する『ブルーサンタ』といった1997年クラブ創設時より続いている活動もあれば、『川崎フロンターレSDGsすごろく』のように近年生まれたプロジェクトもあります。
柳原: 最近、特に注力しているジャンルや取り組みがあれば詳しくお聞きしたいです。
黒木さん: 主に教育、ヘルスケア、環境を軸にした活動を行っています。代表的な活動の一つに、コロナ禍で飛沫防止として用いられた、アクリルパネルをリサイクルしてキーホルダーを作るという活動があります。
浦安D-Rocks 柳原: こういった活動はどのようにして始まるんですか?
黒木さん: きっかけは、サポーターさんからアクリルパネルの処分に困っているという話がいくつも寄せられていたことでした。
その際ちょうど別のところで、オンデマンド印刷のキンコーズ・ジャパン株式会社さんとご縁があったこともあり、キンコーズさんと地元の飲食店さんをつなげることで課題解決に向けて何かできないかな、というところからプロジェクトはスタートしました。川崎フロンターレをハブに、両者をつないだこの取り組みはスタジアムの来場者、子どもたちにいまや人気の企画となっています。
“地域貢献”から”地域連携”へ。共感を生み、地域の社会課題に光を当てる
黒木さん: 他に注力している活動としては誰も無理しない、持続可能な子ども食堂の運営支援を『川崎フロンターレSDGsパートナー*1』とともに行っています。2022年8月より本格的に始めた子ども食堂の支援は、これまでのべ13,360名、寄贈量は5.1トンを超えました。
内山 :この取り組みを始められた背景について教えていただけますか?
黒木さん: そもそも川崎フロンターレのホームタウンである川崎市は人口が約153万人、市内に商店街が80ヶ所以上あり、狭い範囲に多くの人が密集しているという地域特性があります。また市内での所得格差も課題の一つです。そんな多様な住民を抱える川崎市にとって、子ども食堂の存在は子どもたち、親子にとって重要な場所の一つだったんです。
内山: 地域に根付いているクラブだからこそ気づける視点ですね。
黒木さん: 子ども食堂について調べていくと、継続的に運営していくには運営費や食材の調達等、さまざまな課題があることがわかりました。そこで川崎フロンターレではこうした子ども食堂の現状を踏まえ、各パートナー企業と連携して、食品の提供や保管場所の確保といった多方面の支援を行っています。
*1『川崎フロンターレSDGsパートナー』とはSDGsの理念を踏まえ、地域課題の解決や、持続可能なまちづくりの実現に向けて、川崎フロンターレと共に手を携え取り組んでいただける企業・団体のパートナー制度
柳原: 企業連携のハブとしてスポーツクラブが機能しているんですね。浦安D-Rocksでも「サステナビリティ・スクラムプロジェクト」という、親会社とスポーツチームが連携することでサステナビリティを推進しようという取り組みを進めています。
黒木さん: 子ども食堂の事例がまさにそうですが、このような多方面の支援の仕組みは一社単独では実現が困難です。スポーツチームが核となっているからこそ実現できていると感じています。
内山: とはいえ、すぐに真似できるものではないですよね。川崎フロンターレさんのように、クラブ創設時からの活動の積み重ねがあって構築された、信頼関係によって共創が生まれているように感じました。
黒木さん: たしかに時間はかかりますが、川崎フロンターレも常に順風満帆だったわけではありません。特にコロナ禍では、活動が社会的に制限された影響で、地域住民との接点が薄くなってしまいました。
Jリーグのクラブはどのクラブにも地名が入っているように、地域に根ざすことが大前提です。子ども食堂が川崎特有の課題の一つを示すように、地域に存在する社会課題に光を当てることも、スポーツクラブができることの一つだと思っています。
柳原: たしかに社会課題をスポーツを通じて幅広い世代に届けることができますね。
黒木さん: また活動を継続させることで、その歩みや成果を対外的に発信することも重要だと思っています。それが結果的に社会課題への関心を高めることにもつながるのではないでしょうか。
地域の社会インフラとして、スポーツクラブができること
柳原: 改めて川崎フロンターレさんの取り組みを伺って、浦安D-Rocksもまだまだできることがあると感じました。そんな川崎フロンターレさんの、今後のサステナビリティ活動への目標や展望についてお聞きしたいです。
黒木さん: 目指すのは、単なるサッカークラブではなく、持続的な地域社会や地域経済の発展に必要不可欠な存在としてのサッカークラブです。
これまでさまざまなサステナビリティ活動を実施してきましたが、これらはほんの一部に過ぎません。そして、スポーツにはサポーターやパートナー企業・団体、そして地域住民などたくさんの人と関われるチャンスがあり、彼らと共創して生まれるものの価値にとても大きな可能性を感じています。
内山: まさに僕らも地域連携共創への可能性を感じていますし、今後より一層推進していきたいと思っています。
黒木さん: ここまでお話ししてきたように、川崎フロンターレではさまざまな活動を実施していますが、SDGsの17番『パートナーシップで目標を達成しよう』が入ってない項目は一つもないんですよ。僕らから協業・共創の提案させていただくことも多いですが、ありがたいことに「川崎フロンターレさんと、こんなことできませんか?」と企画を持ち込んでくださる企業さんもいらっしゃいます。
柳原: とても理想的な関係性ですね。
黒木さん: そして、ここから生まれた活動を絶えさせないために、自分たちを含め、あらゆるステークホルダーが持続的に潤う仕組みづくりに挑戦しています。多くのステークホルダーが誰も無理せず、ずっと取り組み続けられることが大事だと思っています。
内山: なんだか行政みたいですね。僕らはそこに選手を巻き込む、というのも必要だと思っています。こういったサステナビリティの活動をクラブが続けることで、選手たちの競技パフォーマンスにつながっていると感じることはありますか?
黒木さん: サステナビリティ活動の実施は選手にも好影響を与えていると思います。川崎フロンターレでは、トップ選手を含め、年に一度グループワーク形式の『SDGs研修』の実施や、多摩川の清掃活動『多摩川エコラシコ』、年始の商店街挨拶回り等の活動を実施してきました。
特に地元での活動は、地元の方々とのコミュニケーションを通じて、自分たちが応援されていることを強く実感する機会になっているそうです。参加した選手は「プレーで恩返ししたい」という気持ちが芽生え、それは、チームの勝利や結果につながっていると思います。
また、近年は世界的なスーパースターのメッシ選手などがサステナビリティ活動に積極的なこともあり、そもそも選手の活動への意識は高いと感じていますし、社会とのつながりを実感することは選手のモチベーションにも繋がっているはずです。
内山: 僕らもラグビー選手のサステナビリティも含めた人材育成を目標に掲げています。特にとても参考になりました。アスリートならではの社会的リーダーシップを発揮した地域との共創活動を通じて、選手たちにも実践的なサステナビリティ活動の場を提供していきたいと思います。ありがとうございました!
企画・取材・編集:浦安D-Rocks
執筆:守屋あゆ佳