会社とチームがサステナビリティで繋がる。スポーツチームとの共創への期待と課題

スポーツを楽しめる社会を守るために、スポーツの力でサステナビリティの実現を目指している浦安D-Rocks。社会との共創によってサステナビリティの実現をめざす「浦安D-Rocks Sustainability Hub」では、様々な方々へのインタビュー、対談を通して、さまざまな立場の方々にサステナビリティの実現について発信していきます。

第2回は、株式会社NTTドコモの本田大介さん、NTTコミュニケーションズ株式会社の藤浪 俊企さんにご登場いただきます。

株式会社NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ株式会社といえば、いわずもがな浦安D-Rocksを運営する株式会社 NTT Sports Xの出資会社です。今回はこれまでサステナビリティの領域で浦安D-Rocksと昨シーズンを走り抜けたお二人との対談を通じて、これまでの歩みを振り返るとともに、浦安D-Rocksとの共創の可能性や今後の展望を語ります。

株式会社NTTドコモ経営企画部サステナビリティ推進室担当課長 本田大介

NTTドコモ関西(当時)入社後、社内システムのグランドデザイン、新規サービスの立ち上げ、キャッシュレス決済サービス(dカード、d払い)の会員獲得・利用促進などに従事。2021年よりサステナビリティ推進室に所属し、「カボニュー」の立ち上げを経て、現在はサステナビリティの社内外コミュニケーションやGX人材育成の企画・推進などを担当。

NTTコミュニケーションズ株式会社スマートインダストリー推進室担当課長 藤浪俊企

NTT Comに入社後、顧客企業のインフラ設計やプロジェクト管理、システムグランドデザイン策定などの業務に従事。現在はサステナブルな社会の実現に向け、GHG排出量可視化ツールやカーボンクレジットプラットフォームの事業立ち上げなど、ICTを活用したGXソリューションの企画開発を担当。

執筆:守屋あゆ佳

顧客との距離をどう縮めるか。カギを握る存在こそ、スポーツチームにあり

浦安D-Rocks 柳原(以下柳原) : 昨年浦安D-Rocksでは、World Rugbyが発表したサステナビリティアクションと足並みを揃え、みなさまと連携し、持続可能な社会に貢献することを目指しています。昨年チームのサステナビリティの活動を一気呵成に行っていく中で様々な面でご一緒させてただきましたが、まずは改めて、現在のご所属、取り組まれている事業等について、簡単にご紹介いただけますか?

本田さん : 株式会社NTTドコモ 経営企画部 サステナビリティ推進室の本田です。

サステナビリティ推進室では、事業運営とESG課題への取組みを一体的に推進し、サステナブルな社会の創造への貢献をめざしています。具体的には、全社戦略や方針の策定のほか、寄付や教育支援事業などの社会貢献活動、脱炭素・生物多様性保全・資源循環など環境保全に向けた取組みなどを行っています。特に環境分野では、「あなたと環境を変えていく。」というスローガンのもと、自社(Scope1・2)の温室効果ガス排出量を2030年までにカーボンニュートラル*1、サプライチェーン(Scope3)も含めた温室効果ガス排出量を2040年までにネットゼロ*2にすることをめざしています。また、お客さま・パートナー企業とともに、社会全体の脱炭素に向けた取組みも進めています。

https://www.docomo.ne.jp/corporate/csr/ecology/environ_management/netzero

藤浪さん: NTTコミュニケーションズ株式会社スマートインダストリー推進室の藤浪です。弊社も「ドコモグループ2040年ネットゼロ」に基づき、自社に加え、お客さまや社会のGX(グリーントランスフォーメーション)*3にも取り組んでおり、私はお客さまや社会のGXを推進するサービス開発に取り組んでいます。

柳原: ありがとうございます。それぞれ全社的にカーボンニュートラルやGXへの取り組みが加速する中で、昨年は浦安D-Rocksのサステナビリティの取り組みに賛同いただき、スポーツ界では先進的な取り組みを共創させていただきました。

なぜお二人がスポーツチームとの共創に積極的に取り組んでいただいたのでしょうか?

本田さん:気候変動やGXの取り組みは喫緊の課題で、社会みんなで取り組むべきこと。意識の高い人だけではなく誰もができることから、小さなことでも取り組み始めていく必要があります。

しかし、一方でお客さまの行動変容を促すことの難しさも実感しています。企業が正論で訴えかけるだけではなかなか行動変容には繋がらないのが現状です。

藤浪さん: 政府や企業だけではなく生活者らを中心とした、草の根活動の積み上げが重要ですよね。

本田さん: そこで注目したのが「推し活」で、これこそ、浦安D-Rocksに期待したところです。アスリート、スタッフを通じて、ファンに訴えかけることができれば、ファンすなわちお客さまの行動変容に繋がるのではないか。企業とお客さまには距離がありますが、スポーツチームならその距離を縮めることができるのではないか、と思い、 浦安D-Rocksとの共創「サステナビリティ・スクラムプロジェクト」に取り組みました。

藤浪さん: 弊社が提供するGHG排出量可視化プラットフォームCO2MOS(コスモス)を活用し、2024年3月30日の主管試合(VS NECグリーンロケッツ東葛戦)にて、電気使用及び観客の移動に伴い排出されるCO2量を算定し、カーボン・オフセット*4を実施しました。

柳原: この可視化を通じて、チーム運営、試合運営にどれだけ環境に影響があるのかを選手はもちろん、ファンにも伝えることができたと思っています。

藤浪さん: 気候変動をはじめとするかつてない規模の課題に対処するためには、これまでのアプローチとは異なる座組みあり、そのきっかけのひとつがスポーツであると思っています。排出量削減のアクションをチームから発信し、ファンと共にサステナブルな試合運営に挑戦する。それはファンの皆様にそもそも気候変動やGXとは何か、そのために企業がどんなことに取り組んでいるかを知ってもらうことにもつながりますし、ひいては社会全体の行動変容につなげられるのではないかと感じています。

柳原: 私もいろんな主体が旗を振ることが行動変容を加速させると思っています。その中の一つとして、スポーツチーム、アスリートが旗を明確に振ると、チームとファンの団結力で社会的インパクトがある取り組みになるのではと思っています。

ラグビー選手がもつ精神性をサステナビリティ活動に繋げ、社会的インパクトを生み出す

浦安D-Rocks 内山(以下内山) : 社会的インパクトという観点でいうと、昨シーズンの取り組みは、先進的であると高い評価がチームには届いていますし、スポーツチームが行うべきことを率先して取り組んでいると評価もいただきます。

ぜひ、おふたりにお伺いしたいのですが、おふたりから見て昨シーズン、ご一緒させていただいた事例はどのようなインパクトを社会に与えているとお感じですか?

藤浪さん: 正直、観客、お客さまを巻き込んで実際に何かを成し遂げきったという実感はまだありません。技術的な実証実験もすべてできたわけではないので。ただ、だからこそスポーツチームのGXには、まだまだ伸びしろはあると思います。

特に浦安D-Rocksは様々なアプローチで先進的な取り組みを行っていますし、広範に検討をおこなっているので、「こんな考え方もあるけど、これもできそう?」というのは投げかけやすいですよね。

本田さん: 例えば今年2月にリリースを出した「サステナビリティ協プロジェクト」は社会的インパクトを生み出せた事例の一つといえるのではないでしょうか。科学技術の力であらゆる環境問題を克服することを目指す、株式会社ピリカと弊社が浦安D-Rocksと連携し、ラグビー選手がスポーツチームを取り巻く環境問題に取り組んでいます。

内山: 第一弾として「脱炭素」、「人工芝流出対策」の2つをテーマにプログラムを始動させましたね。たしかに、手前味噌に聞こえるかもしれませんが、気候変動による影響を大きく受けるラグビーというスポーツから、実際に選手として携わるアスリート自身が正しく捉え、できることを考え、実施するためのプログラムというのはラグビー界においても挑戦的だったと思います。私たちとしてもチャレンジングな試みでした。本田さんにもお越しいただき、選手たちの前で何度も勉強会を開催いただきました。

本田さん: はい。正直、アスリートの皆さんがどこまでサステナビリティへ意識が向いているのかは未知数で、ちゃんと話を聞いてもらえないんじゃないかという不安もありました。練習をもっとしたいのかなと勝手に思い込んでいました。でも実際は全くそんなことはなくて、真剣に話を聞いて、積極的に質問をしていただきました。終了後のアンケートからも選手の皆さんの、サステナビリティへの意識の高さに驚きました。

柳原: 私もこれまで選手らの前で何度かサステナビリティについて話したことがありますが、選手が主体的に学ぶ姿勢には毎回驚かされます。

藤浪さん: 弊社内でも浦安D-Rocksの選手の皆さんの勤勉さは話題になりますよ。ラグビー選手の特性なんでしょうか。

内山: 利他的なところはあると思います。ピッチでもピッチ外でも発揮されますね。「One for all All for one」という言葉もありますが、自分たちの行動が誰かのためになる、ということに対しての意識が高いんですよね。試合でも、誰かが痛いところに突っ込んでいかなければいけないので、人間性がパフォーマンスに出やすいスポーツの一つだと思います。

僕らとしては、選手が気候変動や環境問題の話を自らの言葉で語れる状態をつくることで、選手を応援してくれているサポーターと、一見パッとはとっつきにくい気候変動の問題が、緩やかに繋がる接点になりうるのでは?と考えています。だからこそ、現役時代からサステナビリティ活動に選手が関与することにはコミットしていきたいと思っています。

藤浪さん: GXの領域は人材育成が急務です。特に地方ではGX人材がまだまだ足りていませんし、アスリートではもっと稀な存在なはず。もしかすると、ラグビー選手がGX人材不足という課題をブレイクスルーしてくれる可能性さえも秘めていそうですね。

本田さん: 弊社では「カボニューアンバサダー」という社内制度を設け、環境貢献に対する熱量が高い社員を中心に挙手制で参加してもらい、ドコモグループ社内や部署内での環境に関する施策を盛り上げていただいています。現在、全国に約900人のアンバサダーがいるのですが、それを浦安D-Rocksの選手が担うというのも良さそうですね。

柳原: 「カボニューアンバサダー」をアスリートにまで拡大できるとさらに可能性が広がりそうですね。そうすることで、アスリートはもちろん浦安D-Rocksサポーターといえば環境意識が高い、といった状態がつくられそうです。日本のラグビー界としてはサステナビリティの領域に強い選手の人材育成という意味でいうと、まだまだできていないのが現状。特に現役時代となると尚更ハードルが上がります。

だからこそ浦安D-Rocksがリーダーシップを持って、サステナビリティと選手のキャリア育成について本気で取り組んでいきたいと思っていますし、そこに大きな可能性があると感じています。

来季に向けて、浦安D-Rocksとの共創の価値と可能性

柳原: ここまで昨年の活動を振り返りながら、今後につながる様々なヒントもいただきました。最後に、今後の活動への展望をお伺いしたいです。

本田さん: 実現できるとよいなと思っているのは「ファンマーケティング」「コミュニティマーケティング」的なアプローチで、押しつけではなく、コミュニティの内側から生まれる行動変容の実践です。冒頭の話に戻りますが、それはきっと企業だけの投げかけでは実現が難しいと思います。浦安D-Rocksが選手、スタッフ、サポーターを巻き込みながらサステナビリティ活動に取り組んでもらい、影響力あるチームになることで、一緒にやりたいと言ってくださるパートナー様も増えると思いますし、スポーツ界に対しても社会に対しても新たなインパクトを生み出せるのではないでしょうか。

藤浪さん: 可視化は手段に過ぎませんし、カーボンオフセットをすればいいというわけでもないと思います。必要なことはどうやってCO2を削減するか。その課題に対して、スポーツチームが何をすべきか、ファンをどう巻き込むか。そういった取り組みをどんどん浦安D-Rocksと仕掛けていきたいですね。

特に、スポーツを通じた社会への行動変容の期待が寄せられている今、誰とやるかを明確にすることや見た人たちがダイレクトに連絡できるような、座組みの重要性が問われていると思います。会社単位ではなく、部署単位でパートナーシップを結ぶなどして、早いサイクルで回しながら、共創の機会を生み出していく必要もありそうです。

柳原・内山: ありがとうございます。本取材の場であるOPEN HUB Parkには、2022-23シーズンまで浦安D-Rocksに所属していた羽野一志元選手が社員として在籍しており、チームとの縁も感じております。ぜひ、引き続きお力添えいただけたらと思います。よろしくお願いいたします!

取材は、大手町にあるNTTコミュニケーションズが運営する事業共創の場OPEN HUB Parkにておこなわれた。OPEN HUBは、企業のみなさまと一緒に社会課題を解決する場として、2021年に開始した事業共創プログラムで、OPEN HUB Parkという「場」の提供に加えて、NTTグループやさまざまな企業の持つ「技術」の提供、またカタリストと呼ばれる専門家たちが共創ビジネスを支援する。

羽野一志 元浦安D-Rocks選手コメント

浦安D-Rocksがドコモグループ各社とグループの垣根を越えた共創を生み出していることは素晴らしいことだと思います。今日、取材で使っていただいたOPEN HUB Park(東京・大手町)はまさに共創を実現するための実験場のため、そういった取り組みがどんどん推進されていくことを期待します。

 

*1 カーボンニュートラル

人間の活動による二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにすることを目指す政策です。これには、再生可能エネルギーの利用拡大やエネルギー効率の向上などが含まれ、地球温暖化対策の一環として国際的に取り組まれています。

*2 ネットゼロ

経済活動による温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺して、実質的に排出量をゼロにする目標を指します。エネルギー生産や工業プロセスからの排出削減、森林などの自然吸収源の活用、炭素捕捉技術の導入などが含まれます。この目標は、気候変動対策として国際的に共有されており、多くの国や企業が設定しています。

*3 GX(グリーントランスフォーメーション)

経済や社会の構造を持続可能なものへと変革することを指す概念です。具体的には、化石燃料に依存しない再生可能エネルギーへの転換、環境に配慮した技術や製品の開発、循環型経済への移行など、環境負荷の低減を目指す一連の取り組みが含まれます。

*4 カーボン・オフセット

自身の活動で発生した二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスを、他の場所での排出削減や吸収増加のプロジェクトを支援することにより、実質的な排出量を相殺する取り組みです。

企画・取材・編集:浦安D-Rocks