地元に根ざして45年。埼玉西武ライオンズが取り組むコミュニティ活動『L-FRIENDS』から見る、地域課題×スポーツのアプローチ

スポーツを楽しめる社会を守るために、スポーツの力でサステナビリティの実現を目指している浦安D-Rocks。社会との共創によってサステナビリティの実現をめざす「D-Rocks Sustainability Hub」では、様々な方々へのインタビュー、対談を通して、さまざまな立場の方々にサステナビリティの実現について発信していきます。

第8回は、株式会社西武ライオンズコミュニティ創生部アシスタントマネージャー前野友志さんにご登場いただきます。

埼玉西武ライオンズ(以下、ライオンズ)はホームタウン・所沢市に1979年に誕生し、2024年で45周年を迎えました。野球・エンターテインメントを通じて、ファンと共に熱狂を共創し、新たな感動を創造することを目指し、様々な活動に取り組まれています。とりわけ、地域社会に向けた代表的な取り組みとして知られる『L-FRIENDS』は、地域・ファン・選手・スタッフをひとつの仲間としてつなぎ、みんなでほほえみあふれる未来を作ることを目指した活動です。

今回のインタビューでは、『L-FRIENDS』の取り組みをはじめとする、ライオンズが長年取り組んできた地域に根ざした社会貢献活動への手応えや課題感、そして今後の展望について語っていただきました。

地域に根ざした球団が取り組むべき課題とターゲットの見つけ方

 

浦安D-Rocks 柳原: 今日は地域に根ざした活動に長年取り組まれてきたライオンズさんの取り組みについて、ぜひお伺いできればと思います。

西武ライオンズ 前野さん: よろしくお願いします。私は2021年10月に入社し、現在は主に地域との連携事業の窓口を担当しています。西武ライオンズ憲章では、『地域社会に貢献できる様々な活動を行い、地域の皆さまに愛され、地域に根ざした球団』になることを掲げています。そのため、ホームタウンである所沢市はもちろん、埼玉県や県内の自治体、各公共団体と連携し、活動を行っています。

ライオンズの社会貢献活動の取り組みの一つに「ライオンズこども基金」(現「L-FRIENDS基金」の前身)があります。これは、2011年の東日本大震災を機に、「プロ野球選手として、球団として何ができるのか」と自分たちの存在意義を模索した結果、震災の影響を受けたこどもたちのためにアクションを起こそうということで、スタート。設立当時の柱は「地域社会」「教育」「被災地支援」で、物資の寄贈が主な活動でした。

その後、2015年に所沢市、飯能市、狭山市、入間市、日高市と連携協力に関する基本協定を締結したことを皮切りに、小学校や保育施設への訪問事業など、基金設立以前からやっていたことも含め、活動が広範囲かつ多岐に渡るようになりました。

そこで、これまでの活動も含めて、2018年にコミュニティ活動『L-FRIENDS』を発足。『L-FRIENDS』は、地域・ファン・選手・スタッフをひとつの仲間としてつなぎ、みんなでほほえみあふれる未来を作ることを目指す活動で、「野球振興」「こども支援」「地域活性」「環境支援」の4つを柱に、持続可能な社会の実現に向けて様々な取り組みを行っています。

浦安D-Rocks 石神: 我々浦安D-Rocksも、ホームタウンである浦安市に根ざしたチームを目指し、最近は特に、サステナビリティ・環境問題に焦点を当てた取り組みに注力しています。ライオンズさんはどんな課題に注力されているのでしょうか。

西武ライオンズ 前野さん:  こどもに対する支援が代表的です。『L-FRIENDS』が発足して最初に行った取り組みが埼玉県内の小学生全員へのベースボールキャップの配布で、こどもの体力や運動能力の低下が社会課題として浮き彫りになってきた中、そこに歯止めをかけるため、外遊びのきっかけを作りたい思いから始めました。また、小学生のソフトボール投げの平均記録が低下傾向にあり、とりわけ埼玉県は全国でほぼ最下位に位置しています。これはこどもたちを取り巻く環境、例えば公園でボール遊びが禁止されているといったことが、こういった問題に影響していると考えられます。

更に、野球競技者人口も年々低下傾向にあり、とりわけ中学生の軟式野球の競技者人口が著しく減少しています。このような状況も大きな課題の1つと捉え、中長期的に取り組むために、球団単独ではなく、アマチュア団体などと連携しながら野球振興の活動も推進しています。

浦安D-Rocks 柳原: 競技人口の減少は大きな課題ですね。D-Rocksもラグビーをプレーする場所としてクラブハウスを提供しています。社会課題が山積する現代、スポーツクラブが「どの問題に取り組むか」を考えることはとても難しいですよね。

西武ライオンズ 前野さん: ただラガーマンになってもらう、ただ野球選手になってもらうだけではない関わりしろを生み出す必要性がありますよね。取り組みの方向性についてはまさに頭を悩ませているところですが、ライオンズのルーツはやはり、こどもですね。

浦安D-Rocks 柳原: 先ほども、こどもをターゲットにした課題の設定の話がありましたが、地域に根ざした課題はどこからどのように見つけ、また、プロジェクトの形にしていくのでしょうか。

西武ライオンズ 前野さん: 起点は県内の市町村(自治体)やアマチュアの野球団体などの声がほとんどです。ソフトボール投げの記録低下の事例がまさにその一つですが、他にも中学校の部活動の在り方など、テーマは正直、なかなか重たいものが多いです。そうした課題に対して球団として、あるいは西武グループとしてバリューを発揮できることを考え、必要に応じてパートナーを組みながら、プロジェクトを組成します。

こどもたちに対しては、まずは野球を好きになってもらうことが大事だと思っています。せっかく体験イベントに来たのに一球も打てなかったら、その時点で野球に対しての興味が薄れてしまうかもしれないですし。そのために体験イベントの際などはこどもたちに使ってもらう道具などもアレンジしながら、楽しく野球に触れていただく機会を提供しています。

また、必ずしも野球や球場に紐づかない関わり方もできると思っています。例えば、選手が摂っている食事と同じメニューを小・中学校の学校給食として取り入れてもらうという取り組みがあります。こうした日常の中にいつもとは異なるアプローチを取り入れることで、こどもたちに食べることの大切さを一層、伝えることができると考えています。こういった取り組みは野球に限らず、どの競技でも取り組めると思います。

浦安D-Rocks 石神: こどもたちにとってもプロ野球選手をはじめアスリートはスターですから、影響力も大きいですよね。D-Rocksも浦安市にクラブハウスができてから、それまでラグビーには馴染みのなかったこどもたちとの交流や関係が育まれました。

ところで、選手自身の社会課題への意識や関わり方はどうでしょうか。浦安D-Rocksもチームのサステナビリティ活動に選手の関わりを増やすべく、勉強会の主催などをはじめ、試行錯誤しているところなのですが。

西武ライオンズ 前野さん: ここは正直、まだまだできていない部分もあるのですが、選手による社会貢献活動は、90年代ごろからシーズンシートの寄付など徐々に行われるようになったので、過去の選手の取り組みの事例も相まって、選手の関心が強いなというのは実感しています。

以前、選手に「どんな社会貢献活動に興味があるか、取り組んでみたいと思うか」というアンケートをとったことがあるんですが、想定していた以上にリアクションがありました。詳しく聞いてみると、高校時代、部活動で地元のゴミ拾いやボランティア活動に熱心に取り組んでいたことがある、と。なるほど、そういうところの影響力もあるのかと感じましたね。

どうしても試合や練習のスケジュールの都合上、選手が地域に赴いて、社会貢献活動をする時間が取れないこともあるのですが、できる限り選手自身の興味・関心に沿った活動に関われるような仕組みを整えていきたいと思っています。

スポーツに寄せられる社会課題アプローチへの期待、どう応え、広げていくか

浦安D-Rocks 柳原: 選手の巻き込み然り、ここまでのお話を聞いていく中で、長年地域の課題に取り組んできたライオンズさんには年代問わず、地元からの信頼、期待が大きいのではないかと思っています。これまでの取り組みの手応えやそのような期待感については、どのように感じていますか。

西武ライオンズ 前野さん: 有難いことに、2023年には所沢市表彰を球団・選手会が受賞させていただくなど、取り組みを評価していただく機会もありました。また、長年ライオンズが、時にパートナーと連携しながら様々な社会貢献活動をしてきたことで、「ライオンズに相談したら、さらに広がりが生まれるかもしれない」という期待感を抱かれているのではないかとも思います。我々としても、ライオンズ単独でやるよりも、ライオンズが触媒となって、広めることが目指すべき姿の理想かなと考えています。

一方で、先ほど柳原さんがおっしゃっていたように、現代は社会課題が山積しています。ラグビーがそうであるように、野球にとっても気候変動、環境問題は喫緊の課題の一つ。特に、ここ数年は毎年のように高校野球の夏場の試合の在り方が議論に挙げられます。ライオンズとしても2020年に埼玉県内での豪雨被害を機に、環境への取り組みを強化しました。

とはいえ、取り組みきれていない分野もあるので、やるべきことはまだあると考えています。引き続き地域のニーズに寄り添いながら、アウトプットを模索していければと考えています。

浦安D-Rocks 柳原: 我々は課題解決の実践に、もっとファン、サポーターを巻き込めるのではないかという仮説を持っています。

これまでホームゲーム開催時にサステナブルステーションを設置したり、日本航空株式会社様と連携し、スポーツスタジアムで家庭用廃食油を回収し、SAFの原料として利活用する取り組みも実施してきたのですが、思っていた以上に、こうした取り組みをポジティブに捉えてくれるサポーターが多かったんです。最近だとスタジアム内の「もったいない」を見つけ、サステナブルの活動を考えるツアーを実施したのですが、我々の想定以上の方々に参加応募いただき、関心の高さに驚きました。

西武ライオンズ 前野さん: ファンやサポーターの巻き込みや仕掛けづくりは重要ですよね。一方で、ファンやこどもたちは試合を楽しむために来るので、うんざりされないように押し付けや勉強っぽくなりすぎないような見せ方が非常に重要だと思っています。

例えば、ライオンズでは「紙カップ回収強化キャンペーン」といって、ビールワンコインデーの日に紙カップの回収を促進するキャンペーンを実施しています。場内に20箇所ほど、専用の紙カップ回収ステーションがあるのですが、そこの回収の状況をリアルタイムで計測し、進捗をビジョンに映したり、スタジアムMCに紹介したりしています。

ですが、こういう取り組みをホームスタジアム以外ではできていないこと、オフシーズンの取り組みの現状を踏まえると、まだまだできることがあると考えています。

浦安D-Rocks 柳原: まさにどう楽しくやるか、広げるかですよね。行動変容を自然に生み出すことは難しいですが、スポーツが糸口となって行動変容を生み出し、広げるきっかけを作ることを競技の垣根を越えて取り組んでいけたらと思います。ありがとうございました。

企画・取材・編集:浦安D-Rocks

執筆:守屋あゆ佳