日本企業・産業界の気候変動推進を牽引するJCI共同代表・加藤氏に聞く、スポーツのポテンシャル

スポーツを楽しめる社会を守るために、スポーツの力でサスティナビリティの実現を目指している浦安D-Rocks。社会との共創によってサスティナビリティの実現をめざす「D-Rocks Sustainability Hub」では、様々な方々へのインタビュー、対談を通して、さまざまな立場の方々にサスティナビリティの実現について発信していきます。

5回目となる今回は、これまでさまざまな業界の気候変動問題やサステナビリティの取り組みに広く関わられてきた気候変動イニシアティブ(JCI)共同代表 セルジオ加藤さんと浦安D-rocksゼネラルディレクター・CSOとの対談を通じて、スポーツ界ができる気候変動問題のアクションと可能性について探ります。

気候変動イニシアティブ 共同代表 加藤 茂夫

株式会社リコーで欧州事業、本社統括に従事したのち、2015年からサステナビリティ担当役員として、脱炭素宣言、日本企業として初のRE100参画を実現。事業活動とSDGsを同軸化するESG経営への変革をリード。その後、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の共同代表、 World Environment Center(WEC、本部米国)やグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の理事として、気候変動問題を中心に企業・産業界の社会課題解決への貢献をけん引。外務省の「気候変動に関する有識者会合」のメンバーに加わる。2018年7月に気候変動イニシアティブ(JCI)設立に参画し、2023年共同代表に就任。

国家政府以外が主体のゆるやかなネットワーク「JCI」によるアクションとは

浦安D-Rocks 柳原 : 今日はクラブハウスまでお越しいただきありがとうございました。佐藤大樹選手とともにクラブハウスを丁寧にみていただき意見を交わせてよかったです。しっかりとお話ししたい議題が数あるのですが、まずは加藤さんが共同代表を務められている「気候変動イニシアティブ(以下、JCI)」についてご紹介いただけますか?

JCI共同代表 加藤茂夫さん : JCIは気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、団体、NGOなど、国家政府以外の多様な主体のゆるやかなネットワークです。2018年に105団体が賛同して立ち上がり、企業や大学、金融機関、自治体などが参画しています。このネットワークは気候変動対策への取り組みや裾野を広げることが目的です。具体的にはセミナーやワークショップなど勉強会を開催したり、政策提言を発信したり、年に一度「気候変動アクション日本サミット」という形で取り組みを共有したりしています。

発足のきっかけは、アメリカでは2017年6月に、トランプ政権がパリ協定の離脱を表明しましたよね。しかし、トランプ政権のパリ協定の離脱表明後も企業、州政府、自治体などが “We Are Still In” というネットワークを作って、気候変動対策の強化に取り組んできました。実は、他の国々でも国家政府以外の多様なアクターの横断的な組織をつくる動きが始まっています。JCIも同様で、こうした国際的な動きと連携するものでもあります。

浦安D-Rocks 柳原 : JCIの積極的な取り組みはいつも拝見させていただいております。今は当たり前の感もありますが、企業や我々スポーツチームのような多様性あるメンバーが気候変動対策に取り組み始めたのは本当に最近ですよね。一方でこの流れは指数関数的に増加していますね。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : 気候危機の深刻化、グローバルスタンダードでの気候アクション要求、サステナビリティ経営の展開などにより、参加団体も増え続けています。以前に比べると取り上げていただけるメディアも増えましたが、国際基準と比較するとまだまだです。

やはり日本はこの手の問題に対して、遅れをとっているのが現状です。このまま気候変動対策ができていない国と認識されてしまうと世界で”Made in Japan”が売れなくなったり、日本の考え方が世界から認められなくなり、パートナーシップも結ばれにくくなったりすることも起こりえると思います。

浦安D-Rocks 柳原 : だからこそ、いろんな業界を巻き込んで働きかけていくことが大事ですね。実際に今どれぐらいの企業・団体がJCIに参画しているのでしょうか。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : 今日現在(2024年10月4日)で824団体が加盟しています。東証プライム企業約250社などの大企業から、東京都や横浜市などの自治体、消費者・宗教団体、NGO等までさまざまです。これらの非政府アクターによる脱炭素の取り組みが、今、政府に具体的な政策変更を求めるアドボカシーにまで拡大しつつあります。

これはそれだけ多くの非政府アクターが、日本の気候変動政策と1.5度目標達成に整合した世界の政策とのギャップ、排出削減の現状に対して強い危機感・切迫感を共有していることの現れとも言えると思います。それに、消費者だけでなく、排出してきた国や産業界、そしてその事実を伝えるメディアにも責任があるはずです。だからこそ、皆でこの問題に向き合っていく必要があると思っています。

社会全体を動かすプラットフォームへ。企業スポーツの新たな立ち位置とは

浦安D-Rocks 柳原 : 「さまざまなステークホルダーを巻き込んでいく必要がある」というお話ですが、スポーツは気候変動問題に対して、どういう向き合い方ができるでしょうか。加藤さんから見て、スポーツチームが持っている価値や可能性についてお伺いしたいです。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : まず、スポーツは市民と密接に繋がっている領域ですよね。しかもその繋がりが濃く、年齢層も子どもからシニアまでと幅広い。地域コミュニティとの密着性やファンの存在というのは、他の業界には持っていない、スポーツならではの特性ではないでしょうか。

浦安D-Rocks 柳原 : まさに私たちもそう思っています。スポーツチームがチーム内の改善で何か特別に気候変動問題に対して大きなインパクトが出せるわけではないです。チームが排出するGHGの量も他の産業と比較してとりわけ大きいわけではないので。

一方でスポーツチームはサステナビリティの取り組みの社会における「ハブ」になることはできると思っています。スポーツを通じて、異なる産業を繋ぎ様々なサステナビリティの実証を行えるというのが私たちの大きな価値であると考えています。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : スポーツはファンやスポンサー、地域との双方向のコミュニケーション機会が多いですよね。気候変動問題のことを伝えるとなると、メディアではどうしても難しく語られてしまいがち。いかに社会にわかりやすく発信できるか、というところにもスポーツができることがありそうですね。

浦安D-Rocks 柳原 : 同じメッセージを企業から伝えるのと、スポーツチームから伝えるのでは受け取られ方がいい意味でカジュアルに自分ごととして受け止めていただけますね。試合会場でサステナビリティ関連の体験を実施すると気軽にファンの皆さんが楽しんでいただいている光景を目にします。気軽に触れることができることも私たちの良さかなと実は思っています。

浦安D-Rocks 内山 : それに、ラグビーというスポーツの特性もあると思っていて。”One for all All for one”という言葉があるように、ラグビー選手の特性として、利己と利他の精神があると思っています。ラグビー選手だからこそ伝えられること、届けられるものがあるのではないかと。

選手は決して環境の専門家ではありませんが半年間で6回の環境についての勉強会を開催し、数名の選手は自身が興味を持った分野の啓蒙を行うアンバサダーとしても動いています。選手がアスリートとしての体験を交えながらサステナビリティの話をしています。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : ラグビー選手の特性はとても興味深いですね。子どもたちにとってのヒーローであるアスリートがサステナビリティを語ることは社会にとって大変有意義であると感じます。

浦安D-Rocks 内山 : 私は社会のために、ラグビーをもっと使っていいと思っているんです。特にジャパンラグビー リーグワン ディビジョン1に参画しているのは、一流のグローバルカンパニーばかり。ラグビーも企業スポーツの一つだからこそ、企業スポーツ自体の使い方を変えていく必要があると考えています。

また、選手のキャリアデザインという観点で見ても有効的だと思っています。現役時代からサステナビリティへの理解があって、実際にアクションを起こしているということは、現役引退後のキャリアに活かすことも十分できるはずです。

浦安D-Rocks 柳原 : 私たちはNTTというグローバルカンパニーによる企業スポーツだから、何かしらの取り組みをするときには国際基準でのアクションを起こすこともできますし、あるいは企業の新しい取り組みのPoCの場として、スポーツチームを使うこともできると思うんですよね。そして、そのインパクトも一定数与えられるのではないかという仮説を持っています。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : その可能性も十分あると思います。それに、サポーター・ファンの皆さんも、チームが「ただ勝つ」よりも「いいチーム」であってほしいと願っている人が多い気がします。そういったチャネルを持っていることは、社会全体を動かせるプラットフォームとしての役割を担えることにも繋がりそうですね。

JCI×スポーツクラブの共創の可能性と実現に向けて

浦安D-Rocks 柳原 : まさに「D-Rocks Sustainability Hub」は、浦安D-Rocksが持続可能な社会を目指して行うサスティナビリティの共創のハブとして、専門家、ファン、地域、パートナー企業、出資会社といった多様なプレイヤーとの共創や、クラブハウス、試合会場での共創結果の実践を通して、社会や地域、教育の分野などにサスティナビリティのアクションを波及させていく、いわばプラットフォームを目指しています。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : 既に何かしらの共創も生まれているんですか。

浦安D-Rocks 柳原 : まだまだ立ち上がったばかりなので、これから、というところではありますが、チーム活動のGHG排出量 計測結果・削減計画を発信したり、オフセットの実施をしたりしています。

共創モデルでもいくつかの取り組みが今進行しています。

 

浦安D-Rocks 内山 : 複雑な社会課題に対して、行動変容をどう起こすかというのは難しいですが、スポーツが子どもたちの成長と共に伴走する役割を担えることには、こだわっていきたいですね。

浦安D-Rocks 柳原 : 先ほどの加藤さんのお話にも繋がりますが、ただ試合に勝つだけではなく、社会に対してのアクションを実施していることが、チーム自体のバリューを高めると思います。それはファンにとって、ちょっとしたことでも気候変動問題に対する意識の変化をもたらし、ひいては行動変容へと繋がっていくのではないかと思っています。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : もし実際にJCIと連携するとしたら、どんなことができそうですかね。JCIには様々な業界・業種の企業、自治体、団体、NGOが関わっています。まずは実際にみなさんの試合に足を運んでもらって、このフィールドでどんなことができそうかを探っていくのが良さそうでしょうか。

浦安D-Rocks 柳原 : 皆さんから今困っていることや考えたいテーマをきっかけとしていただいて、選手たちと一緒に考えることもできると思いますし、あるいはファンを巻き込んで開催することなどいろんな形での共創が可能だと思っています。……ということで、まずは我々もJCIに入るところから。引き続き、連携させてください。

JCI共同代表 加藤茂夫さん : コミットさえあれば、JCIへの参画はハードルが低いので。印鑑も必要ないですし(笑)。ぜひ、一緒にスクラムを組んで段階的に、社会に対してアクションを起こしていきましょう!

企画・取材・編集:浦安D-Rocks

執筆:守屋あゆ佳